2024 11,26 |
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2009 06,28 |
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傘もっていかなかったらこのざまですよ!
個人的な用事でお出かけをしたのですが、本当は……行きたかったなコミックシティ…… 悔しいので師弟に雨、とかそういう妄想もしてみました。 お時間がありましたらご覧になってやってくださいませーっ ↓なんかウマいこと言ったつもりのリンクタイトル 顔中を涙と鼻水でいっぱいにして、松尾芭蕉はそこに立っていた。 「うっうっ……曽良くーん」 よく見れば涙と鼻水ばかりではない。 頬を伝ってぴちゃぴちゃと垂れる雫、その他にも幾粒もの水滴が線をつくった首筋。しっとりとして色の濃くなってしまった着物に、毛先の固まって跳ねてしまっている、やや茶色い短髪。 彼の全身がずぶ濡れている。 「何事ですか」 「つめたいんだよぅ」 なぜ、どうして、などとは疑う必要もなく、冷静に考えてみればそれは仕方のないことだった。 空は曇天、どころではない。とうに泣き出していた。 「ひどく濡れましたね」 「……なんか拭くもの貸してくれん?」 部屋の片付けに今の今まで集中していた曽良は、天候の悪化に気付いていなかったのだ。 ところが外から名を呼ぶその声に邪魔をされ、仕方なしにと出て行ってやってみたらこの有り様である。呼び声の主が彼であることは、よく解っていた。曽良が間違えることはない。 「うざいので」 「え?」 決して、ない。 「失礼します」 一息に呟くと、曽良はあっさり戸を閉めてしまった。すると芭蕉が閉め出される。 「あっ、ああー! 何してんだコラー!」 「うざかったので……」 「せめて手ぬぐいのひとつくらい貸してくれたっていいだろ! あと傘とかっ、着替えとかっ!」 「ひとつじゃありませんね」 「なんだよー! ひどいよーひどいよー」 泣き声がまた大きくなった。 (よくもまあ……騒ぐ男だ) 間にある戸を閉め切ったのだから、ふたりの距離は遠ざかったはずであるのに、途切れて聞こえることも濁って響いてくることもない。曽良はその声を決して間違えない。 (こんなに叫ぶ元気があるのなら、走って帰ってしまえばいいのに) 芭蕉の家とてそこまで離れてはいないはずだ。遠くはない、いや、むしろ近しい。 たしかに曽良は手ぬぐいすら貸してやっていなかったし、雨を降らせているのもまた曽良、ではないが空だ。しかし、それを言うのなら芭蕉だって無実ではないのだ。曽良の片付けを邪魔したのは芭蕉であったし、その声をもって降り注ぐ雨を知らせて寄越したのもまた、芭蕉なのだから。 (この、すぐ先にいる) 曽良は目の前の戸に片手をやって、木の感触を緩やかに撫でた。そこは慣れ親しんだ領域の一部であるのだというのに、普段とはどこか違って感じられる。 あきらめて帰ってしまってもよかろうに、芭蕉はそれをしたがらない。彼は兎に角『してもらう』ことを好むから仕方がない。そこまで子供じみているというわけでもないのだけれど、少なくとも、曽良に対してだけはいつだって我が侭な男だ。だから、甘えにきたのだろうか。構ってほしいというのだろうか。 (まだ、いる……) このような面倒を、誰に対してもかけようというわけではない。曽良でなければ彼はきちんと、泣きながらにも濡れて帰っていったのだろう。おそらく。おそらくは。 師にあきらめる気がないというのなら、とどまらぬ雨がいっそのこと心地よい生温さへ変わるぐらいに、驚くほど熱い茶の一杯でも与えてやろうか。考えながら、曽良はゆっくりと踵を返して戸に背を向けた。 「そっ、曽良くーん! 置いてっちゃやーだぁー!」 「…………」 芭蕉が焦った声をあげてくる。 向こう側から、こちらのことを覗いてでもいるのだろうか。曽良に芭蕉の姿は見えない。 (……やっぱりうざい) ああ、まったくもって、うざったいことこの上ない。 戸のある方へ視線を戻してみれば、全身をしとどに濡らして泣きじゃくり、溢れる涙を両手の甲でぐすぐすと拭っていた姿が思い起こされる。 そうして再び戸に背を向けた。とっとと熱湯を沸かしてしまおうと、曽良は考えたのだった。 開けてやるのはそれからだ。 芭蕉さんってばずぶ濡れが似合うよね! という身勝手なパトスを叩き付けたらかわいそうなことになってもうたね こ、この後ちゃんと曽良くんの家に入れてもらって、手ぬぐい借りてお茶飲んでお風呂にも入ってご飯を食べてから、傘を借りると見せかけてお泊まりとかしちゃった後に晴れた空の下を帰ったらしいっすよ……(妄想)! PR |
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